Mary Wallopers パンクとDIY

Mary Wallopers パンクとDIY

「かっこいいことはなんてかっこ悪いのだろう」と言ったのは早川義夫だけれど、その逆もまた然り、初めてこのアイルランドの若者のバンドを見たときの印象はまさに「かっこ悪い」だった。この服装、髪型、そして体型。そして直感的にこのバンドは「かっこいい」に違いないと思った。「カッコ悪いことは何てかっこいいのだろう」だ。

Mary Wallopersは2019年にデビューしたアイリッシュ・トラッド・フォーク・バンドである。チャールズとアンドリューのヘンディ兄弟とショーン・マッケナを中心に結成された。現在は6人編成のバンドである。

彼らはダブリンとベルファストのちょうど中間あたり、北アイルランドとの国境に近いダンドークという街で生まれ育った。この街出身のミュージシャンには、アメリカに行って成功したあのコアーズがいるという。また彼らの尊敬するジンクス・レノンもこの街の出身である

バンド名は彼らのツイッターの投稿によると「ダンドークの港で見つけた、オファリー出身のセックスワーカーにちなんで名付けられた手漕ぎボートの名前からとった」そうだ。オファリーというのはタラモアなどがある、アイルランド中部のオファリー県のこと。

もともとヘンディ兄弟はTPM(TaxPayers' Money)というラップグループとして活動をしてことがある。こちらは2015年の作品で当時結構バズったらしい。

”All the Boys on the Dole”は「すべての底辺の野郎ども」という感じか。それにしてもこの映像の二人は現在の兄弟のボディシェイプとは似ても似つかない。毎日ビールを飲むとこうなってしまうのか、と感慨深いものがある。

ヘンディ兄弟は、上記ラップの曲が思いのほかヒットしてしまい戸惑っていたところ、アイルランドの独立運動家であり社会主義者であるジェイムズ・コノリーを描いたバッグを持っていたショーン・マッケナに声をかけたら意気投合し、アイリッシュトラッドのバンドをやろうということになったのだという。

そしてコロナ禍に自宅をパブに見立ててライブを配信したところコロナで飲みに行けない人たちがこれを観て飲みに行った気になって大変にバズったらしい。これがその映像。

2022年、2023年と立て続けにアルバムを発表し、大きなコンサートイベントにも呼ばれた。アイルランドの人気番組Late Late Showにも出演、破竹の勢いである。2023年には同じく新進気鋭のアイリッシュ・トラッド・グループ”Lankum”などと一緒にガザ医療支援のためのチャリティーライブを企画したりしている。

2024年の正月にはジュールズ・ホランズショーにも出演し、本家ポーグスのスパイダーと一緒にストリームズ・オブ・ウイスキーをやっている。こうなってくると本物である。

そしてこちらは最近、今年6月のグラストンベリーでの彼らのライブ。

いやあほんとにかっこいい。僕は1990年頃からかれこれ30年以上アイリッシュモダンミュージックを聴いてきたけど、このセンスと躍動感はピカイチではないだろうか。ここ数年のライブサーキットの経験が生きているのだろう、演奏にも歌にも余裕がある。このアレンジ、テンポ、演奏の仕方、歌い方、伝統から学び、伝統を壊している。全てがオリジナルなのだ。

こちらオーストラリアの音楽雑誌のサイトに載っていた彼らの記事。

大変興味深いのでAI翻訳を少し引用する。

「パンクは僕の人生に最も大きな影響を与えたと思う。特にパンクのアティテュード、つまり15歳や16歳の若者が全米ツアーに出かけるみたいな、本当に古いものから80年代のハードコアまで、パンク・シーンのDIYのアティテュードだ。」アンドリューは付け加える。「何のリソースも持たず、ただ持っているものを使ってバンドを始めるということ。ダンスホールからヒップホップ、ジャズまで、あらゆる優れた音楽シーンで起こったことだよ」
ザ・メアリー・ウォロパーズは(時折 「フォーク・パンク 」とカテゴライズされるにもかかわらず)パンクの偶像の多くを外見上で彷彿とさせるようには見えないかもしれないが、パンクのエートスである反抗の道具としての音楽は、アイルランド人が歴史的に音楽を用いてきたものと同じだと彼らは指摘する。
「僕らが見る限り、アイルランドの音楽は常に反抗のための道具だったけど、パンク・ミュージックはそれをより現代的に反映したものだと思う」

www.thenote.com.au

パンクとDIYのスピリットを明確に意識しているのだ。

彼らは常に世間に話題を提供しているようだ。こちらはダンドークの浜辺でイルカを助けたエピソード。

イギリスでも大騒ぎになったが、こちらはアイルランド・ダンドークで発生した移民排斥デモに反対してメガホンで歌っている彼ら。日本でもこういう外国人排斥運動があるけど、どうして助け合いの精神というものがないのだろうかと思う。彼らが頼もしい。

パンクでDIYな、人権もイルカも大切にする彼らの活躍は、この気持ちが塞ぐようなニュースばかりの今、本当に希望である。彼らに期待するだけでなく自分だってがんばらなくちゃと思う。

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