アイルランドの最も美しいメロディを持つバラッドの一つといえば”Lakes of Pontchartrain”である、というのは多くの人が同意してくれるのでは無いだろうか。
そして、この歌といえばポール・ブレイディだろう。
ポール・ブレイディが加入する前、クリスティ・ムーアの歌うこの曲が1974年のプランクシティのアルバムに入っている。
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この“Lakes of Pontchartrain”は、アイリッシュバラッドの定番だと思っていたが、実はルイジアナのクレオール女に恋をした男について歌ったアメリカの民謡だそうだ。ちなみにポンチャートレイン湖というのは、ルイジアナ州のニューオリンズの北にある湖のこと。男は女に恋をして結婚を申し込むが、彼女はすでに別の船乗りと婚約していたために失恋してしまう、という歌だ。
この歌はプランクシティによると、米英戦争でアメリカのインディアナ州やカナダでイギリス軍やフランス軍のために戦っていた兵士によってアイルランドに持ち帰られたのではないかとのこと。クリスティ・ムーアは誰からこの歌を教えられたのだろうか。
ところで、この歌とほぼ同じメロディで、歌詞が違う”Lily of the West”という歌をチーフタンズのアルバムでマーク・ノップラーが歌っている。
しかしこの歌はLakes of Pontchartrain”とは別の歌で、もともとは19世紀のイギリスのストリートバラッドだったものがアメリカに渡り、アメリカのフォークソングとして深く根付いたものだという。古いアメリカの歌として、ジョーン・バエズは1961年にこの曲を録音している。
こちらはそのすぐあと、1963年のダブリンでのAnne ByrnsとJesse Owensの演奏。ジョーンバエズの歌を知って取り上げたのか、それともアイルランドでも昔から歌われていたのかどうか。
ボブ・ディランもこの曲を歌っている。親交のあったジョーン・バエズから教わったのであろうか。
ちなみにジョニー・キャッシュの長女でシンガーのロザンナ・キャッシュもチーフタンズのアルバムの中で歌っている。
そして先ほどのマーク・ノップラーの”Lily of the West”であるが、チーフタンズのアルバム「ロング・ブラック・ベイル」のライナーノーツには、マーク・ノップラー自身がこのバージョンを好んで歌っていた、と書いてある。そういうバージョンが昔からあったのだろうか。
しかしクレジットを見ると、なんとギターはポール・ブレイディが弾いている。もしかしたらこの歌を“Lakes of Pontchartrain”のメロディにのせてみたら上手くいくんじゃないか、とポール・ブレイディが提案し、二人でアレンジをしたのかもしれないとも思った。しかしそのようなことはどこにも書いてないし確認できなかった。もしどなたかご存知のかたがいたら教えて欲しい。
“Lakes of Pontchartrain”にもどる。こちらは2011年、チーフタンズとポール・ブレイディの共演。ウェストポートにあるマット・モロイのパブでの映像だという。夢みたいな共演だ。
またこのポール・ブレイディのインタビューでは、この曲との出会いについて話している。70年代の前半にクリスティ・ムーアが歌っていたのを初めて聞き、自分がプランクシティに加入したあと、歌うようになり気に入って、ギターをアレンジし、自分のアルバムにも入れることにした、と。またボブ・ディランがこの曲を気に入り、教えてくれと連絡があり、彼がロンドンに来た時にウェンブリースタジアムの楽屋に呼び出され、ギターを手取り足取り教えたエピソードを面白おかしく話している。
こちらがボブ・ディランのバージョン。面白いことに彼は“Lakes of Pontchartrain”も”Lily of the West”もどちらもレパートリーにしているのだな。ところで今日映画を観に行ったらボブ・ディランの評伝映画の予告をやっていた。2025年2月公開だそうだ。楽しみだ。