アイリッシュギタリストの使用ギター

アイリッシュギタリストの使用ギター

前回“Irish Trad Guitarists”としてミュージシャンについて調べたが、その過程でそれぞれのギタリストが弾いているギターについて興味が湧いた。そこで今度はそのギタールシアーやメーカーについて改めて調べてみようと思う。

■ローデン Lowden

まずは言わずとしれたローデンである。前回の”~Guitarists”でローデンを使っていたのは、以下の4人だった。

ポール・ブレイディ Paul Brady
ジョン・ヒックス Jon Hicks
マーク・ケリー Mark Kelly
コルム・オカオミ Colm O’Caoimh

また彼ら以外でローデンのサイトで紹介されているプレイヤーは以下。

アレックス・デ・グラッシ Alex De Grassi

1952年生まれのアメリカのフィンガースタイルギタリスト。Lowden F35cのメイプルを使っているとのこと。

ピエール・ベンスーサン Pierre Bensusan

1957年生まれのアルジェリア系フランス人のギタリスト。彼の最初のローデンギターはなんと1978年のものだという。アイリッシュトラッドを演奏するこちらの動画のギターはカッタウェイがついているのでそのギターではなく、次のものだろうか。

リチャード・トンプソン Richard Thompson

1949年生まれのイギリス人。1967年に結成したフェアポート・コンヴェンションのリード・ギタリスト兼ソングライター。2011年、大英帝国勲章(OBE)を叙勲。動画はローデンのサイトより。サイド・バックにジリコテを使ったシグネチャーモデルを弾いている。

トーマス・ラーブ Thomas Leeb

1977 年生まれ、オーストリアのフィンガー スタイルギタリスト。ローデンのほかに、Parkwood guitarsという韓国のギターメーカーお気に入りだという。このギターも面白そうだ、今度調べてみよう。

Parkwood Guitars | Premium Solid Acoustics Parkwood Guitars Official Website - Premium Quality Solid Aco parkwoodguitars.co.kr

ボディや弦をバシバシ叩く奏法のギタリスト。No Women No Cryを演っている。

ローデンギターは北アイルランドのギターメーカーで、ジョージ・ローデンというルシアーの立ち上げた工房だ。いわゆるハイエンドギターで新品だと70万円以上する。厳選された材をオリジナリティーあふれる、しかしオーソドックスなデザインで精巧に組み上げる。とにかく音がすごい。ピアノのような、深く、大きな音がするが、繊細な表現もできる。そして丁寧な作りで、意外に頑丈である。ネックが反ったりお腹が膨らんだり、バインディングが剥がれたローデンは見たことがない。そういうところが信用できる。

このnoteでローデンの歴史を直訳したものを載せているのでそちらもぜひ参照してほしい。

 

■コリングス Collings

前回の”~Guitarists”でコリングスを使っていたのは以下の二人。

イアン・カー Ian Carr
デニス・カヒル Denis Cathil

余談だが、ドーナル・クランシー Donal Crancyの弾いているギターのヘッドデザインがコリングスに似ていた。でも少しだけ違う。調べてみると彼のはブルジョワ・ギター Bourgeois Guitarsというアメリカのメイン州の手工ギターであった。別にお金持ちのためのギターということではなく、Dana Bourgeoisというルシアーが作っている。

そのサイトのプレイヤー紹介の中には、DÁITHÍ SPROULE、RY COODER、STEVE EARLEなどの名前もある。このメーカーも注目しておきたい。

Home | Bourgeois Guitars At Bourgeois Guitars, we combine flawless craftsmanship withbourgeoisguitars.com


コリングスについての解説は不要だと思うがとにかく現在のアコースティックギターの中では頭ひとつ抜けている憧れのハイエンドギターで値段も高い。

ルシアーのビル・コリングスは1947年生まれで2017年に亡くなっている。70年代の中頃に自宅のキッチンテーブルでギター作り始め、80年代の中頃にはテキサスに移り工房を拡大、作るギターの評判が上がるにつれビジネスを拡大していった。90年代にはオースティン郊外に工房を手に入れ、この頃にはピート・タウンゼントやジョニ・ミッチェル、ブライアン・メイが顧客であったという。その後もビジネスを拡大し、革新的なマンドリン、エレキギター、ウクレレなども制作したという。

Collings History | コリングス・ヒストリー コリングス・ギターのヒストリー。 www.taurus-corpo.com

一度だけOM1を弾いたことがある。粒立ちの良い上品な音色だったと思う。正直言って今一番欲しいギターだ。

 

■タカミネ Takamine

”~Guitarists”でタカミネを使っていたのは以下の三人。

ポール・ミーハン Paul Meehan、
ダブリナーズのジム・マッカン Jim McCann、
同じくパディ・ライリー Paddy Reilly

ちなみにSteve Cooneyもタカミネのガットギターをよく弾いている。

他にもタカミネを使っているアイルランドのミュージシャンは多くいるような気がする。タカミネのギターはピックアップをあらかじめ搭載したエレアコが多いので、電気系統の安定している日本製が重宝されたのではないか、というのは僕の勝手な推測である。それとも他に何か理由があるのだろうか。とにかく日本での評価と、アイルランドギタリスト界における評価には違いがあるような気がする。実際にタカミネのギターの実力を僕は知らない。今後研究してみたい。

ちなみにタカミネのサイトの使用ミュージシャンのページにはポール・ミーハンもジム・マッカンもスティーブ・クーニーの名前もない。載っているのはボンジョビとかスプリングスティーンとかだから仕方ないか。

タカミネギター使用アーティスト|高峰楽器製作所 - タカミネギター www.takamineguitars.co.jp

 

■マーチン Martin

”~Guitarists”でマーティンを使っていたのは以下の五人。

ジョン・ブレイク John Blake OMサイズ?
マイケル・マッカニュー Michael McCague ドレッドノート
ポール・マクシェリー Paul McSherry  そもそもマーチンか?
ザン・マクロード Zan McLeod ドレッドノート D18?
マーク・サイモス Mark Simos 000サイズ?

マーチンについては僕が解説できることなど特にない。ただ最近少し思うのは、00や000サイズなどのショートスケールはその優しいサウンドや取り回し良い楽器の大きさなどから、アイリッシュセッションにはピッタリじゃないか、もっと使う人が増えても良いのじゃないか、と思っている。

 

■キンケイド Kinkade Guitars

面白いところで、フルック、ルナサのエド・ボイド Ed Boydが弾いているのはキンケイドというギターメーカー、イギリスのJonny Kinkeadというルシアーのギターだ。

Kinkade Guitars - Handmade and Handbuilt Acoustic Guitars Handmade acoustic and electric guitars in the heart of Bristo www.kinkadeguitars.co.uk

この方は、30年間の自分のルシアーとしての経験をもとに“Build Your Own Acoustic Guitar”という本を最近出版したそうだ。読んでみたい。

Build Your Own Acoustic Guitar: Complete Instructions and Full-Size Plans : Jonathan Kinkead: Amazon.co.uk: Books Build Your Own Acoustic Guitar: Complete Instructions and Fulwww.amazon.co.uk

ところで上記サイトの”Artist”タグを開いて驚いた。

Kinkade Guitars - Kinkade Artists Artists using Kinkade Guitars, with well renound guitarists fwww.kinkadeguitars.co.uk

なんと、最初に紹介されているアーティストはあのストラングラーズである。 Hue&JJである。動画も載ってる。なんと硬派なギターメーカーだろうか。

それだけでこのギターメーカーが好きになってしまった。ちなみにエド・ボイドとルナサのことも動画・写真入りでしっかり紹介している。初めて観たがRTÉ Concert Orchestraとの共演だ。

すっかりファンになってしまったのでとりあえずReverbとかeBayとかで探してみたが全く見つからない。サイトの価格表をみると30万円くらいから買えそうだ。直接注文してみようかな。

 

●マキルロイ Mcilroy Guitars

前回のGitaristsでシェイミー・オダウド Seamie O'Dowdのものとしてリンクを貼ったこちらの動画でSteve Cooneyが弾いているのがMcIlroy Guitarsである。

「マキルロイ」と読むのが正しいのかどうか。そもそも日本に代理店もなく、紹介も少なく確かめようがない。この綴り「McIlroy」というのが、ちょっと読みにくい。「Mc」の後が大文字の「I」である。その次の「L」の小文字と見分けづらい。でも確かにアイルランドでよくある「Mc」の後は大文字である。マクドナルドだって「McDonald's」と書く。今まで「Mcilroy」と表記していたが、「McIlroy」が正しい。気をつけよう。

このメーカーは、もともとローデンの工場長だったDermot McIlroyが、ローデンが身売りをするタイミングの2000年に独立し、自分の工房を開いたと頃から始まっている。ローデンを彷彿とさせながら、よりタイトで硬質なサウンドが素晴らしいギター。何よりその作りの良さはローデンの工場で学んだのだろう。日本の内田ギターの内田光広さんも90年までローデンの工場で工場長をしていたとのこと。マキルロイさんも一緒に働いていたはずで、内田さんから技術を継承しているのではないだろうか。内田ギターもいつかは弾いてみたいギターだ。

いやあ、このフォルムは素晴らしい。

内田ギター ハカランダのU Shape

また「内田ギター」で検索していたらこんなショップが見つかった。

uchida asami powered by BASE 内田ギターの木材で箸をつくっています asamiuchida.thebase.in

内田ギターの端材でお箸を作っているようだ。娘さんかな?
ハカランダのお箸、なんてギター好きには最高だ。今度買ってみようかな。

 

■ABマンソン ブルック・ギターズ AB manson/Brook Guitars

ここからは僕が最近気になっているルシアー、工房を勝手に紹介したい。すっかりファンになってしまったイギリスのルシアーがアンディ・マンソンである。

Home | Andy Manson Luthier www.andymanson.com

とはいえ彼はその筋では大御所のようだ。ジミー・ペイジやジョン・ポール・ジョーンズにギターを作っていたこともあるという。芸術品のようなデザインのギターを作る。ギターだけでなく、マンドリンやブズーキも作っている。たまたま出会った彼の手によるDoveというギターが僕のショップにあるが、その作り、サウンドが本当に素晴らしい。深みがあり、柔らかく、どのギターにも似ていない。

そして調べていると彼の工房に居た制作者が立ち上げたギター工房がある。

Brook Guitars - Brook Guitars Built in the UK in the heart of the West Country.Custom Handwww.brookguitars.com

ブルックギターズという工房で、イギリスのウエールズの下あたり、デボン州にある。サイトをみると素晴らしいギターがたくさんあるが、ショップタグをみると全てソールドアウト。どうやったら手に入るのだろう。ニュースに載っていたこのギターが気になった。ジェイムズ・ジョイスの弾いていたギターとそっくり。アンディ・マンソンがデザインしたギターだそうだ。

下記記事をご参照ください

 

■フィルデ Fylde Guitars

このメーカーはJohn Doyleのインタビューで知った。イギリス北西部のカンブリア州にあり、Roger Bucknallというルシアーが作った工房だ。70年代からギターを作っており、歴史のある工房である。

Welcome to Fylde Guitars www.fyldeguitars.com

こちらは上記サイトよりジョン・ドイルの演奏

こんなブズーキも作っているようだ。The Weaveの演奏

どのようなギターなのだろうか。どこかで出会えるだろうか。

 

■アトキン Atkin Guitars

こちらはCristy Mooreから知ったメーカー。

Atkin Guitars | apollonmusic.com 専門各誌でトップの評価を受け続ける世界的に最も注目されるUKアコースティックギタールシア"Alister Atkin(アリ apollonmusic.com

1995年イギリスのカンタベリーで設立。まだ新しいメーカーである。しかしイギリスのコリンズなどとも呼ばれ評判の良い工房だ。

そのサイトから引用。

“他のハイエンドギターメーカーが「完璧な」ギターを作ることに夢中になっているように見えますが、私たちは他のもっと重要な品質に興味を持っています。私たちが目指しているのは、より多くの感触、より多くの個性、より多くの輝きを持った楽器を作ることです。”

うーむ、なかなか良いことを言う。なんというか遊び心のあるギター工房である。

下のギターをみてほしい。なんと素敵な。ちょっと弾く自信はないけれど。

 

最後に

イギリスのギター工房は奥が深そうである。60年代、70年代のロック創世記にイギリスでギター製作を初めた世代、そしてそれを引き継ぐ世代が併存しているような感じだ。上記以外で素敵な工房をご存じの方がいらっしゃったらぜひコメント、DMで教えてください。

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