「名もなき者」 もう一人のボビー

「名もなき者」 もう一人のボビー

結構楽しみにしていたので、せっかくならとIMAXという普通より500円も高い料金の大画面、高音質の大迫力バージョンで観ることにした。初めて体験したが確かにすごかった。音が良い、というのは音楽映画にとっては大切なことだ。画面が大きすぎて少し後ろの席にしないと首が痛くなるから気をつけよう。

ギターも歌も主演のティモシー・シャラメ本人がやっているようだった。ジョーン・バエズ役のモニカ・バルバロも含めてほぼ本物と思えるような、大変レベルの高い再現性だった。エンディング・ロールをみていると、ボーカル・トレーニングとか、ギター・トレーニングという役割の人の名前が何人も出てきていた。きっとこのあたりは相当こだわりポイントだったのであろう。

ボブ・ディランが売れてから追いかけ回されるのにうんざりして、不平を漏らしていたエレベーターの中で話しかけてきたのが、ボブ・ニューワースだった。彼はギターケースを持っていて、ボブ・ディランが名前を尋ねると「ボビー、あなたと同じだ」と答える。そして今晩ある店でライブがあるんだ、と言って別れる。落ち込んでいたボブ・ディランがその後、酔っ払ってその店を訪れると、彼のバンドが演奏していたのが「Irish Rover」だった。

正直いうと、ボブ・ニューワースという人のことを全然知らなかった。なので、この曲をやっているという事はもしかしたら彼はアイリッシュなのかなと思ったりもしたが、調べてみると特に関連は無さそうだった。なぜこの曲が採用されたのかわからない。単に監督が好きな曲だったからだろうか。この曲はトラッドらしいが、とにかく有名なのはあのダブリナーズとポーグスのバージョンだ。

ボブ・ニューワースは映画の中でも、ずっとボブ・ディランに付き添ってバンドマンや運転手、マネージャーのような役割を負っていた。実際の彼もディランのツアーのローディをやったりして、いつも一緒にいて影響を与え合った仲のようだ。しかし、調べるとなかなかすごい経歴を持つミュージシャンでもあった。例えば、あのジャニス・ジョップリンの有名なアカペラ「メルセデス・ベンツ」を作曲したという。

ニューワースは1970年8月、ニューヨーク州ポートチェスターのバーで、ジャニス・ジョプリンと飲みながら、ビート詩人マイケル・マクルーアがよく歌っていた歌にインスピレーションを得て、即興で共作したのだという。彼は歌詞をナプキンに走り書きし、ジョプリンはその日の夜にキャピトル劇場で公演した際にそれを歌い、その後アカペラで録音したのは死のわずか3日前だった。

ボブ・ニューワースは最近、2022年に亡くなっている。こちらはニューヨークタイムズの記事。この記事によればボブ・ディランの人格形成にも大きな影響を与えた、一癖ある性格だったようだ。

少ないがソロアルバムも発売している。1974年にアサイラム・レコードからデビューアルバム『ボブ・ニューワース』をリリース。このアルバムにはクリス・クリストファーソン、ブッカー・T・ジョーンズ、リタ・クーリッジ他、豪華なゲストアーティストが参加したというが、商業的には成功しなかったという。また次のアルバム『ラスト・デイ・オン・アース』(1994年)はなんとあのジョン・ケイル とのコラボレーション。そして3枚目はパティ・スミス、バーニー・リードン、エリオット・マーフィーなどの友人宅で録音した『ルック・アップ』(1996年)。その後、彼はハバナ に渡り、ホセ・マリア・ヴィティエとのコラボレーションアルバム『ハバナ・ミッドナイト』(1999年)を制作。フォークとブルースをキューバ音楽と融合させた試みであったという。

伝統的なフォーク、ロックそしてジョン・ケールのような実験的な音楽にも近づき、パティ・スミスなどニューヨークパンクシーンにも関わっていたとは、なんとも興味深い。少し音源を探してみた。

こちらはファーストアルバムに入っている、その「Mercedes Benz」。

こちらはジョン・ケールとのアルバムから。

3枚目より。打って変わってトラディショナルな雰囲気。

4枚目「Havana Midnight」から同名曲。

このバリエーションはすごい、素晴らしい。サブスクにも入っているみたいだから、じっくり聞いてみようと思う。

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