スティーブ・アールと マーティン1-28

スティーブ・アールと マーティン1-28

クリスマスが近づくと、どうしたってクリスマスソングが聴きたくなるがいつも同じ曲ばかりでつまらないなあと思っていたところ、ふと思い出したこの曲、素敵だと思いませんか?

□Christmas In Washington - Steve Earle

シンプルなギターのアルペジオと穏やかなスティーブ・アールの歌声が良い雰囲気の曲で、きっと悲しい恋の物語でもうたっているのだろうなと歌詞を検索してみた。予想に反して完全に政治の歌であった。ロマンチックのかけらもない。

ワシントンはクリスマス
民主党は次の4 年間に向けて準備中だ
事態が悪化しないとよいが
共和党員はウィスキーを飲み干して
彼らの幸運の星に願いを込める
もう奴らには次の任期を与えない
ルーズベルトみたいにはさせないぞ、と
そして俺はテネシーの自宅に座って
テレビの画面を見つめている
何か不安な気分がする
それが一体なんなのか

この曲は1997年の発売で、ちなみに1996年の選挙でクリントンが2期目の当選を決めている。しかしその次の2000年にブッシュ政権となり、911事件やイラク戦争に続くことを考えるとこの歌詞の中の「不安」の正体がわかる気がする。

スティーブ・アールは、アメリカのナッシュビルで80年代にカントリー歌手としてデビュー、その後ロックやブルースのアーティストとして活躍しグラミー賞を3回受賞しているような大御所である。アイルランド音楽が好きな人にはシャロン・シャノンと共演した「Galway Girl」が有名だろう。この曲はもはやアイルランドの国民曲と言っても良いような歌になってしまった。

この動画にはスティーブ・アール自身は出てこないが、これを見ればその国民的、という意味がおわかりだと思う
□Galway Girl - Sharon Shannon, Mundy & Galway City

なぜアイルランドのシャロン・シャノンがナッシュビルにいるスティーブ・アールに近づいたのか、不思議に思っていたのだが、ウィキペディアを見ていたらなんとなく繋がりが見つかった。「Galway Girl」が2000年なので、少し時期は離れているけれど1988年、スティーブ・アールはアルバム録音のためにロンドンを訪れてポーグスと録音をしていたのだ。全く知らなかった。ポーグスファンとして一生の不覚。先日亡くなったキース・レビンがクラッシュのメンバーだったと知らなかったことを、そんなことも知らないのか、と友達の加藤から責められたが同じことを言われそうだ。

その時の記録映像がyoutubeにあった。1988年だからアルバム「堕ちた天使」を発売した直後ぐらいだと思う。ポーグスのメンバーが皆若い。シェインもしっかりしている。プロデューサーのスティーブ・リリーホワイトも登場する。ポーグスファンとしては貴重な映像である。
□Steve Earle & The Pogues - Recording of 'Johnny Come Lately'

いきさつはわからないが、ポーグスが大ヒットした直後だから、きっとスティーブ・アールの方からアプローチしたのだろうと思う。いいセンスだ。

いや、本当にこの人の曲はセンスがいいと思う。アメリカのカントリーシンガー、なんていうとなんだかダサい感じがするし、本人の見た目とかファッションは正直センスがいいとは言いづらいが、サウンドは最高である。特にギターの音がいい。この曲などイントロの映像的なアレンジとアコギの感じ、そして後半の歪んだエレキギターの音など最高である。

□Steve Earle - Transcendental Blues

冒頭でも触れたが相当政治色の強いミュージシャンのようで、2002年に発売された「エルサレム」というアルバムは前年の911事件に影響された曲が多く、その中には捕らえられたタリバン戦士ジョン・ウォーカー・リンドについての曲「ジョン・ウォーカーズ・ブルース」が含まれていて、大きな論争を引き起こしたという。その後もブッシュの対イラク戦争を批判した曲を多く作り、また死刑廃止をずっと訴え続けている。
□Jerusalem

スティーブ・アールがギターにこだわりのある人だろうというのはアルバムを聴いていればわかったことだけれど、少し調べてみると、大変なギターオタクだということがわかった。あるインタビューでニューヨークにあるビンテージギターショップ”Matt Umanov Guitars”という店のオーナー、マット・ウマノフと対談している。スティーブはその店に入り浸り、なんと132本のギターを手に入れたということが書かれている。少しどうかしている。

その中でまずは自分のギター遍歴について話している。最初に手にしたギターは150ドルで買ったD18だったという。しかし、弦高が高くカポが使えなかったため、ヤイリ/アルバレスのギターと交換した。その後ギブソンの57年のJ45を250ドルで手に入れた、と。(今の相場だと100倍くらいになってるんじゃないか)

そしてその後、集めに集めた132本のギターの中で、最もお気に入りなのが、この1890年代のマーティン1-28だとのこと。

画像
Martin 1-28

マーティンのギターにはOサイズ、というのがある。これは通常アルファベットのOと読むが、実際は数字の0だったみたいだ。もともとのスタンダードサイズに1とか2とかがあって1が一番大きいモデルだった。しかし時代のニーズに従ってより大きなサイズのギターが必要になり、0モデルが出来、さらに大きなモデルを00とか000とか呼んだらしい。そしてスティーブのお気に入りはこの1サイズで、ショップのウマノフによればこれこそがスタンダードモデルだということ。それにしても1890年のビンテージとは。ストラディバリウスじゃ無いんだから。

ウディ・ガスリーが使っていたギターの話もしている。ウディは自分のギターを持たず、いつも人から借りていた、最初は奥さんの持っていた0-18を使っていたようだ、などと話している。最初に引用した「クリスマス・イン・ワシントン」の歌詞にもウディ・ガスリーは登場する。

Come back, Woody Guthrie
Come back to us now
Tear your eyes from paradise
And rise again somehow
If you run into Jesus
Maybe he can help you out

戻ってきてくれよ、ウディ・ガスリー
今すぐ僕らのところへ
天国を抜け出して
どうにかして蘇ってくれ
もしイエスと遭遇したら
手伝ってくれるかも

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