Djamとバグラマ

Djamとバグラマ

現在、東京の角川シネマ有楽町にてピーター・バラカン音楽映画祭というイベントがおこなわれている。9月21日まで3週間にわたって30本以上の貴重な音楽映画が上映される。

昨日はトニー・ガトリフ監督の「ジャムDjam」を観に行った。
(下はガッジョ・ディーロと2本の紹介動画。後半がDjam。)

大好きな監督なのでどうしても観たかった。トニー・ガトリフはアルジェリア出身でロマの集落で音楽に囲まれて育ったそうだ。ロマの流浪の歴史と音楽を綴った映像抒情詩「ラッチョ・ドローム Latcho Drom (1992)」、自分の父親が好きだったロマの歌手を探して旅に出た青年が出会うロマの女性との恋を描いた「ガッジョ・ディーロ Gadjo Dilo (1998)」、ジプシースウィングの名ギタリスト、チャボロ・シュミットに憧れる少年を主人公にした「僕のスウィング Swing (2002) 」どれも名作揃いだ。

チャボロ・シュミットのCDのライナーノーツにトニー・ガトリフの言葉がある。「私は音楽が大好きだ。それも生き生きとした音楽が。いわば私は『音楽をやる映画監督』と思っていただきたい。映像よりも音楽で表現したい、映画よりも音楽を媒体として使いたいんだ。」

この「生き生きとした音楽」というのが味噌だ。それはお行儀の良いコンサート会場で咳払いをしながら聞くようなものではない。生きるために、生きる辛さに耐えるために、プライドを捨てずに生き抜くために必要な音楽。街角の路上で、酒場で、夜焚き火にあたりながら演奏し、聞く音楽だ。「Djam」の中で主人公の女の子が街を歩いていて、あれ?、と立ち止まる。耳をそばだてる。どこかから音楽が聞こえてくる。歩いて近づいていくと小さな酒場で音楽が演奏されている。そこに知り合いがいて、招き入れてくれる。きっとそういうのが「生き生きとした音楽」なんだろうと思う。

ガッジョ・ディーロのローナ・ハートナーも素敵だったが、今回の映画の主演ダフネ・パタキアがものすごく魅力的だ。トニー・ガトリフは音楽も好きだが、女性も好きに違いない。ダフネ・パタキアは女優だが、歌も楽器の演奏も全部自分でこなしている。92年生まれの彼女はベルギー生まれのギリシャ人だという。だからフランス語が話せるのか。

ギリシャの島、レスボス島にすむ主人公の少女ジャム。島の観光船を修理するために必要な部品をイスタンブールまで買いに行ってくれ、と義理の父親に頼まれる。イスタンブールで出会ったフランス人の女の子と二人での珍道中が始まる。とにかく、音楽、音楽、音楽。映画のイントロのジャムの歌と踊りが素晴らしい。フランス人の女の子が彼氏にパスポート含めて荷物を全部盗まれて、パスポートの再発行手続きをしに行った時の、役人を説得するための歌と踊り。二人で休業中のホテルに嘘をついて潜り込み、誰もいないホテルで素裸で走り回る時の歌と踊り。とにかく奔放で自由で明るい。ああ音楽はいいな、人生って素晴らしいな、という感じ。

劇中にジャムが肌身離さずリュックに入れて持っている楽器がある。細いマンドリンのような小さなブズーキのような、おもちゃのように小さくて、高い可愛い音がする。初めて見る楽器だ。ちょっと調べて見るとバグラマbaglamaという6弦3コースの楽器のようだ。
欲しい楽器リストに入れておこう。

そのほかにも、演奏にはブズーキやトルコのウードなどが使われていた。このレスボス島はギリシャというよりもトルコに近い。文化が混ざり合ってレンベティカという音楽ができたという。アイリッシュトラッドに使われるようになったブズーキもこういうところからやって来たのだと思うと面白い。

久しぶりに爽快感溢れる、気持ちのいい映画を観た。

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