追補 やちむんにちむどんどん

追補 やちむんにちむどんどん

當間早志監督の映画、やちむん結成30周年記念「一生売れない心の準備はできているかい」をようやく観ることができた。映画本編、そして映画終了後のミニライブ、はたまた翌日には阿佐ヶ谷での後夜祭ライブにも行き、2日間で5時間近く「やちむん」の音楽を浴びたことになる。

映画は「首里劇場」という、1950年に建てられた那覇の古い劇場で2016年に行われた「やちむん」結成25周年ライブの映像をもとに構成されている。ちなみにこの首里劇場は、保存の検討も行われたようだが、結局はつい先日取り壊されてしまい、今その姿は無い。この撮影の時はお元気であった館長も昨年亡くなられているとのこと。そういう意味でも貴重な記録である。

下の動画はこの10月、最後の首里劇場での上映会後のミニライブの様子である。劇場と館長に捧げた歌だ。

元々は映画のための撮影ではなかったし、音声はミキサー台でのライン音源が紛失し、たまたま残っていたポータブルレコーダーで録音したものを使っているとのことで、手作り感の強い、なかなかアナーキーな映画である。
また映画の最後に新曲を一曲録音、撮影しようと館長にお願いに行くのだが、やんごとなき理由で直前になって断られてしまう。それで仕方なく「やちむん」創設時のメンバーの店、栄町ボトルネックで撮影するのだが、そのボトルネックのオーナーも映画完成前に急逝してしまう。そういう意味で運命に導かれたような映画であった、と上映後に奈須さんも語っていた。

5時間もやちむんの音楽を浴びて感じたことは、(失礼だが)奈須さんのギターが上手なこと。「床やの孫」などはフリッパーズギターかと思うようなメジャーセブンスを交えた複雑なコード進行だし、「さあふうふう」での半音階を取り入れた繊細な指遣いなどさすがだ。音楽理論というか、ハーモニーというものをしっかり肌で理解していないとなかなかこういうギターは弾けないのではないか、と思った。

そして30年もやってきているからなのだろうが、曲のレパートリーが無限だ。もう怖いもの無しである。どんな組み合わせでもライブができる。一人でもできるし二人でもいいし、ビッグバンドでもできる。しめやかな歌でも、賑やかな歌でもよりどりみどりだ。こういうのは、若者のバンドには不可能に違いない。

映画の中でもその風景が映されるが、ここ数年、奈須重樹は那覇の国際通りなどで「流し」をやっているそうだ。クリアファイルに挟んだ自分の曲リストを酔客に見せて曲を選んでもらい歌うのだ。そういうことができるのもこの持ち歌の豊富さのおかげだろう。

古い曲だって未だに色褪せない。やちむんOfficial web siteのHistoryによると「パイプラインそば」も「がんばれイボヤールー」も「タコス屋で会いましょう」も全て1991年には演奏されていたという。「タコス屋・・」は1994年公開の映画「パイナップルツアーズ」の當間早志監督のパートを撮影中、出演していた洞口依子の気を引くために、彼女のセリフを繋げて15分で書き上げたのだそうだ。

映画の中でも演奏されるのだが、一時期メンバーであったバイオリンの満寿代(ますよ)さんが1994年から12年間在籍し、バンドを辞めるときに書いた曲が「フェアウェルソング」なのだそうだ。

その歌の歌詞の中に
🎵映画で見た ダブリンのバンドも やっぱり
うまくは 行かなかったのかな
思い出せない エンディングが気にかかる
忘れちまった 歳を食ったな🎵
という件がある。

當間監督によれば、これはアラン・パーカーの映画「コミットメンツ」のことだそうだ。映画では、当然バンドはうまく行かず、解散し、メンバーはバラバラになり、映画の最後にそれぞれの顛末が語られている。僕のようなアイルランド・オタクにとっては外せないエピソードだ。

いや、ギターが上手いとか曲がたくさんあるとか、そんなことはなんの褒め言葉にもならない。そんなことでは無く、長いものに巻かれず、金持ちに擦り寄らず、流行を鼻で笑い、大衆に迎合せず、ドゥーイットユアセルフの精神で、自分自身の手で行く道を切り開く、孤高のシンガーソングライターであることをみんなに知ってほしい。映画の表題曲「一生売れない心の準備はできているか」の歌詞を読めばその心意気がなんとなくわかるだろうか。歌詞カードがないので、CDを聴きながら採取した。本当にいい歌だと思う。特に中年男性にはきっとハートにズシンと来ると思う。僕も足掻き続けたい。

🎵一生売れない心の準備はみんなできてるか

築き上げた日々がある
恥ずべきものは何もない
だけどなぜだか僕は焦っている
そうさ、そうだろう

華やかな恋もしたよ
ああ美しかった頃のりんごたち
駆け引きを楽しんでた
ああ女も男も若さに任せて

でもいつのころからか
僕ら蚊帳の外にいる
歓声や嬌声に眉を顰めたりすることはないか

一生売れない心の準備はみんなできてるかい
俺はできてるぜ

一人でいるあいつ
家族ができた僕ら
恋人と蜜月の彼女

でも
等しく僕らの心さいなむ
いいしれぬ不安と寂寥
残り時間、カウントダウンの焦燥
あの時僕らの青写真に
いったい何が映ってたのか
青春のレンズは何を
捉えていたのか

一生売れない心の準備はみんなできてるかい
俺はできてない
まぜろ、若人よまぜろ、おじさんをまぜろ、まぜろ
一生売れない心の準備はみんなできてるかい
一生売れない心の準備はみんなできてるかい
俺はできてない
君も醜くあがきつづけろ🎵

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