もともとは2020年3月に予定されていた来日公演がコロナで延期になり、その振替公演が2022年1月に予定されていたのだが、それもコロナの影響で中止となってしまう。その時、リベンジは2025年らしいよ、という噂を聞いて「えー!2025年!そんな先なのか?」と驚いたのを記憶している。しかしいつのまにか2024年も後半に差し掛かったこの10月、そのリベンジ公演が決まった、というニュースが。80年代に青春時代を過ごした同級生がチケットをとってくれた。SS席の2万円は少しハードルが高かったので、S席15000円。
ただ、2022年に予定されていた公演では前座が電気グルーヴと発表されていたが、今回はブッキングされていないのかな、と少し残念に思っていた。
僕は1967年生まれの静岡市出身。石野卓球もピエール瀧も静岡市内の同学年の高校生だった。当時静岡にはサーカスタウンというライヴハウスがあり、電気グルーヴの前身「人生」がよくライヴに出ていた。僕らのバンド「ペンギンZ」も何回か共演したことがある。駿府公園にやぐらを組んだイベントでも一緒だったかな。
当時の「人生」の聖地巡礼をやられている方をnoteで発見。すごい取材力だ。確かにサーカスタウンの向かいにアブラカダブラあったな。
これによると、サーカスタウンや駿府公演のライブは1985年のことらしい。ということは当時18歳、高校3年生だ。その翌春、大学進学なんかで僕のバンドはバラバラに、「人生」のみんなもナゴムレコードに誘われて東京へ行ってしまう。
その後の石野卓球、ピエール瀧の活躍は知っての通り。同時代の静岡出身の僕らにとって彼らは誇りでもあり、同時に憧憬と嫉妬の対象でもあった。
そして先週、Xを眺めていたらこんなニュースが。
なんと電気グルーヴが東京公演に出演決定とのこと。これは嬉しい。僕らにとっては特別なライヴになるに違いない。
これはしっかりと事前準備をして観に行こうと考えた。
そもそもNew Orderの音楽を最近あまり聞いていない。この40年間彼らが何をやってきたのか、知っておかねばならない。いや、そもそもこのバンドの成り立ち、始まりからおさらいをしておくべきだろう。
ニュー・オーダーといえばマンチェスターである。まずはそこから。
マンチェスターはイギリス北西部の工業都市である。ロンドンからは車で4時間、340キロメートルも離れている。東京から名古屋くらいである。ビートルズのリバプールの右上くらい。戦前に繊維産業が栄え1930年代には一時75万人まで増えた人口が、その後の産業の衰退や「英国病」と呼ばれる不況によって、1980年代には43万人まで減ってしまったそうだ。マンチェスタームーヴメントの裏にはそのような暗い雰囲気があったに違いない。現在は移民増加の影響もあるようだが55万人まで増えているという。
ニュー・オーダーの前身、ジョイ・ディビジョンは1976年結成。ピストルズのライブを見に行ったバーナード・サムナーとピーター・フックが衝撃を受け、バンドを組もうと決意、イアン・カーティスとスティーヴン・モリスに声をかけたそうだ。ちなみに当時バーナードはブレヒトに倣ってアルブレヒトという姓を使っている。
ちなみにバーナード・サムナー、電気の二人はバー兄(バーニイ)と呼んでいるらしいが、彼はマンチェスターの北西部、サルフォード出身となっている。この街はフォークシンガーのイワン・マッコールが生まれた街であり、彼の曲でポーグスが歌った「ダーティ・オールド・タウン」の舞台である。もしかしたらバーニーもパブで酔っ払った時にこの歌を歌うのかもしれないな、と思った。
ジョイ・ディビジョンは「アンノウン・プレジャー」(1979)と「クローサー」(1980)、2枚のアルバムを出したが、1980年5月のイアン・カーチスの自殺によって、バンドは解散。
名曲「Love Will Tear Us Apart」
こちらは最近のニュー・オーダーによる同曲。何とアコースティックな。
そして残ったメンバーでニュー・オーダーを結成する。1981年5月にシングル「セレモニー」、11月にアルバム「ムーブメント」を発表する。
こちらが「セレモニー」まだジョイ・ディビジョンっぽい。
1982年にはジリアン・ギルバートが参加。そして同年、所属するファクトリー・レコードの社長であるトニー・ウィルソンと共同経営の形でマンチェスターにディスコ、”ハシエンダ”をオープン。そうなのか、ハシエンダはニュー・オーダーもオーナーだったのか、知らなかった・・・
1982年の5月に「Temptation」がリリースされる。とても4枚目のシングルとは思えない、この成熟。ブルーマンデイもいいけど、ニュー・オーダーのベストはこの曲なんじゃないかとも思う。曲のエンディングのギターなんかは彼らが好きだった、ベルベットアンダーグラウンドみたいだ。
New Order - Temptation (Official Music Video) [HD Upgrade]
そして1983年3月にその「ブルー・マンデー」が発売される。ピーター・サヴィルがデザインしたフロッピーディスク・ジャケットの12インチシングルだ。
ここで「Roots of 電気グルーヴ」という動画を見てほしい。その第一回、ニュー・オーダー。
ここで語られているのだが、なんと16歳の二人が出会ったとき、石野が最初に瀧に聞かせたのがブルー・マンデーのシングルだという。言い方を変えれば、電気グルーヴを作ったのはブルー・マンデーという曲であった、ということなのだ。
さて、ブルーマンデー。
こちらは2002年のフィンズベリーパーク。ピーターフックのパーカッションアクションがかっこいい。そしてバーニーの踊り、最高だ。この後、ピーター・フックとバーニーは仲違いをしてしまう。何がどうなって決裂してしまったのか、バーニーの自伝でも読んでみようと思う。
こちらは2023年の映像。みんな歳をとってきた。お腹も出てきた。でも踊っている。
その後、80年代にアルバムを4枚出している。このくらいまでは僕も聴いていた。
『権力の美学』 - Power, Corruption & Lies (1983年)
『ロウ・ライフ』 - Low-Life (1985年)
『ブラザーフッド』 - Brotherhood (1986年)
『テクニーク』 - Technique (1989年)
勝手にそれぞれの代表曲を挙げると、
『権力の美学』 - Power, Corruption & Lies (1983年)
からはLeave Me Alone (2015 Remaster)。バーニーとギターとピーターのベースの絡みが泣ける。
『ロウ・ライフ』 - Low-Life (1985年)
The Perfect Kiss (7'' Edit) [High Quality] この曲でポップさが突然開花したのではないか。この映像はストップメイキングセンスを撮ったジョナサン・デミが撮影しているそうだ。この絶妙な緊張感がたまらない。先にあげた電気グルーヴのトークの中にも出てくるが、6分過ぎくらいでスティーヴン・モリスが震えるゆびで「ケロ、ケロ、ケロ」とカエルの鳴き声のサンプリングを鳴らすところなど最高だ。
『ブラザーフッド』 - Brotherhood (1986年)
Bizarre Love Triangle (2015 Remaster) このテクノシンセのアレンジの素晴らしさ。今聞いても鳥肌が立つ。
『テクニーク』 - Technique (1989年)
Fine Time (2015 Remaster) 急にイビサ島のいかがわしいパーティに紛れ込んだような曲調。そしてこのYou’re much too young!という歌詞が、スペシャルズのToo much too youngみたいでかっこいい。
しかし、90年代に入ると活動が停滞する。1993年のアルバム「リパブリック」の後、98年まで活動を休止。2001年にアルバム「ゲットレディー」を出し、ジリアンが育児のために脱退、新しいメンバーを入れながら活動を継続。しかし2007年、バンド結成時からのコンビ、バーニーとピーター・フックの仲が決裂する。ピーター・フックは「ニュー・オーダーは解散した」と主張した。
2011年、ニュー・オーダー再結成ライブを行い、活動を再開する。ジリアン・ギルバートが復帰したがピーター・フックの姿はなかった。現在のメンバーはバーニー、モリス、ジリアンの他に、フィル・カニンガム(ギター、キーボード)、トム・チャップマン(ベース、シンセサイザー)が加わっている。今回の来日メンバーも同じだろうか。
こちらは本当に最近、2024年11月16日にメキシコシティで行われたコンサートフルムービー。最初の数曲、スティーブン・モリスは16ビートでハイハットを叩いているし、ジリアンはいるが、シンセの音はあまり聞こえない。ほぼジョイ・ディビジョンである。目を瞑って聞けば、これが2024年の音楽なのか、1978年の音楽なのか、定かではなくなる。しかし、後半に向けてちゃんとニューオーダーになっていく。こんなライブが見られるのか、と思うと嬉しくなる。
2月27日のライブに向けて、二つの宿題を自分に課す。一つは映画「24アワーパーティーピープル」を観ること。もう一つはバーニーの自伝「ニュー・オーダーとジョイ・ディヴィジョン、そしてぼく」(eleking Books)を読むこと。
ああ楽しみだ。