平和と愛と相互理解の何がそんなにおかしいのか

平和と愛と相互理解の何がそんなにおかしいのか

ニック・ロウは僕にとって非常に思い入れのあるロッカーである。まだロックを聴き始めて間もない高校1,2年の頃、静岡市呉服町にある「すみや」というレコードショップで、セックス・ピストルズの「勝手にしやがれ」とどちらにするか悩んで、ロックパイルの「セカンド・オブ・プレジャー」を買ったのが最初だった。まだバイトもしていない高校生にとって2500円の買い物は大変勇気が要った。だが正解だったと思う。このイントロ、今聴いても涙が出る。(アナーキー・イン・ザ・UKのイントロだって涙が出るが。)

2020年に買ったこの本がずっと本棚にあった。観念して読み始めたが、何せページ数が多い。それでも半分くらいは読んだ。

画像
528ページ! まだ新刊売ってます

お父さんがイギリス軍に勤めていて、世界各地で過ごした少年時代、イギリスのロンドン郊外に戻りロックバンドを組んだ10代後半、ブリンズレイ・シュワルツとして近所のパブで演奏に明け暮れる日々、ソロになって、エルビス・コステロなんかと一緒に売れて、ツアーに明け暮れる日々。大変面白く読んだ。半分だけだけど。

近所のパブで演奏していたころ、キンクスとバッティングして、パブが停電になって騒然としていた時、シャレで言ったつもりのセリフがレイ・デイビスの癇に障り、暗闇の中、馬乗りになられて殴られそうになった話。

デイヴ・エドモンズと組んだロック・パイルがヒットして、ロンドンでライブをやっていたらキース・リチャーズが飛び入りでやらせてくれ、と言ってきて、ステージに上がったはいいが薬のせいかフラフラで、デイヴが「おい、誰か、こいつを早くステージから下ろしてくれ!」とどなった、という話。

結婚相手のカーリーン・カーターの義理のお父さん、ジョニー・キャッシュのために書いた「ビースト・イン・ミー」という曲が完成できず、朝までウイスキーを何本もあけながら書き上げた話。
こちらがそのジョニー・キャッシュのビースト・イン・ミー

この本のタイトルにもなっているニック・ロウ最大のヒット曲「恋する二人」のPVは、上記カーリーン・カーターとの本当の結婚式で撮影した映像を使っている。デイヴ・エドモンズが運転手役だ。

作曲にまつわる苦労話が多いけれど、印象に残っているのは「ユー・メイク・ミー」という曲のこと。アメリカをツアーで回っているときに、打ち上げで飲んでいる最中に曲想を得て、帰ったホテルの一室でどうやって残そうかとふと思いついたのが、ロンドンの自宅の留守番電話の録音に残すというアイディアだった。電話口のそばでギターをつまびきながら歌うのだが、周りで酔ったメンバーがみんな寝てるので起こしちゃいけない、と囁くように歌ったそうだ。それをイギリスに帰って聴いてみると、その囁くような歌い方が良くて、そのまま採用したのだという。

さきほど「恋するふたり」が最大のヒット曲、と書いたが、もしかしたら最大のヒットは「ワッツ・ソー・ファニー・アバウト・ピース・ラブ・アンド・アンダスタンディング」なのかもしれない。もともとはブリンズレー・シュワルツの1974年のシングルだったが鳴かず飛ばず。それをエルビス・コステロがカバーして1979年のアルバム、「アームド・フォーセズ」のアメリカ版に収録されヒットした。

そして極め付けはホイットニー・ヒューストン主演の映画「ボディ・ガード」の挿入歌として、ジャズ歌手のカーティス・スティガーズが歌い採用された。それでニック・ロウのところには印税がたっぷり入ったのだそうだ。

その後この曲は、多くのミュージシャンにカバーされ、ある意味、平和運動のアンセムのようになっていった。

東京を舞台とした、ソフィア・コッポラ監督の2003年の映画『ロスト・イン・トランスレーション』では、主演のビル・マーレイがこの曲をカラオケで歌っているシーンが有名だ。果たして、この映画は日本人の描写が人種差別的である、と当時批判されたそうだ。監督本人は否定しているらしいが、そういうところでもやはり相互理解が必要に違いない。

こちらなんと「ファイナンシャル・タイムス」の記事(なんでそんな経済新聞がこんな記事を書くのか不思議でしかたない)なのだが、この曲がどのように世界に広がっていったのか、が詳しく書かれていて、いろんなミュージャンのバージョンも文中のリンクから聞くことができる。

僕たちはことあるごとにこの曲を聴いたり歌ったりするべきだと思うのだ。

この曲の歌詞を読むと、自分の内面に向けたものであることがわかる。なんだか、世の中全体が悪い方向に向かっているように感じるのに、何もできない自分、みじめな気持ち、失望。しかし違うんだ、そうじゃないんだ、希望を捨てちゃいけないんだ、と自分を奮い立たせるような歌なんだと思う。

僕はまさに今そんな気分だ。

What’s so funny 'bout peace, love, and understanding?
平和と愛と相互理解の何がそんなにおかしいのか

As I walk this wicked world
Searching for light in the darkness of insanity, oh yeah
I ask myself, is all hope gone?
Is there only pain, hatred, and misery, oh yeah?

この最悪な世界を歩くとき
狂気の暗闇のなかを、光をもとめて進むとき
ぼくは自分に問いかける、希望はもうないのか?
残っているのは痛みや憎悪、みじめさだけなのか?

And each time I feel like this inside
There’s one thing I want to know
Oh, what’s so funny 'bout peace, love, and understanding?
Oh, what’s so funny 'bout peace, love, and understanding?

こんなふうに感じるたびに
ぼくが知りたいことがひとつある
ああ、平和と愛と相互理解の何がそんなにおかしいのか
ああ、平和と愛と相互理解の何がそんなにおかしいのか

And as I walk on through troubled time
My spirit get so downhearted sometime, sometime
So where are the strong? Who are the trusted?
And where is the harmony, sweet harmony?

そして困難な時代を歩くとき
ぼくの魂はときどきひどく落ち込むんだ、ときどきね
強いやつらはどこに行っちまったんだ?誰が信用できるんだ?
そしてハーモニーは、あの甘いハーモニーはどこに行ったんだ?

'Cause each time I feel it slipping away
It just makes me want to cry
So what’s so funny 'bout peace, love, and understanding?
Oh, what’s so funny 'bout peace and love, yeah yeah yeah yeah?

それが消えていくように感じるたびに
ぼくはただ泣きたい気持ちになる
ああ、平和と愛と相互理解の何がそんなにおかしいのか
ああ、平和と愛と相互理解の何がそんなにおかしいのか

Brinsley Schwarz  1974
ブログに戻る

コメントを残す