前回ルナサについて書いたので、同じく年末に来日予定の大御所バンド、Dervishについて研究する。
僕がこれまで聞いてきたアイリッシュトラッドのライブアルバムの中で、最高だと思っているのは、Dervishの”Live in Palma”(1997年)である。
マンドーラとブズーキの旋律が絡み合って作り出すグルーブ感と、それに乗っかる各リード楽器のスピード感。そしてセンスの良いチューンの組み合わせ、そしてキャシー・ジョーダンのパンチの効いた歌。特にこのアルバムではイタリアの観客の盛り上がり方がとんでもない。観客の熱気がバンドにも伝わって、演奏にも熱が入っているのがよくわかる。そういう理想的なライブアルバムだ。
こんなすごいバンドがどうやって出来上がったのか。
バンドはもともとアイルランド西部の街スライゴー出身のリアム・ケリー、シェーン・ミッチェル、マーティン・マッギンレー、ブライアン・マクドナー、マイケル・ホルムズによって1989年に結成されている。もともと「ザ・ボーイズ・オブ・スライゴ」というバンド名だったらしく、Dervishとして同名のタイトルのアルバムが出ている。その後1991年にアイルランド中西部ロスコモン出身のキャシー・ジョーダンと、フィドル奏者のシェーン・マカリアが加入し、最初のアルバム「ハーモニー ヒル」が 1993 年にリリースされる。
現在のメンバーは、
キャシー・ジョーダン(バウロン)Cathy Jordan (bodhrán)
ブライアン・マクドナー(マンドーラ)Brian McDonagh (mandora)
リアム・ケリー(フルート)Liam Kelly (flute)
トム・モロウ(フィドル)Tom Morrow (fiddle)
シェーン・ミッチェル(アコーディオン)Shane Mitchell (accordion)
マイケル・ホルムス(ブズーキ)Michael Holmes (bouzouki)
となっているので、シェーン・マカリアがトム・モロウに代わった以外はオリジナルメンバーだということになる。結成34年にしてすごいことだ。
プランクトンさんのバンド紹介の中で「名マンドリンプレーヤーのブライアン・マクドナーが中心となって結成された」とある。ダーヴィッシュのサウンドはこの人の存在に鍵があるのは間違いない。そもそもこの人の担当している「マンドーラ」という楽器はなんだろう。あまり他で使っているのをみたことがない。
こちら、ダーヴィッシュではなく、パイパーのマーク・レドモンド、フルックのジョン・ジョー・ケリーとブライアン・マクドナーの珍しい組み合わせ。ここでブライアンが弾いているのがマンドーラである。
ただこの「マンドーラ」という響き、なんだか馴染みがある。考えてみたら、僕が高校生の時に所属していたマンドリン部の合奏で使われていた楽器にマンドーラという楽器があったのだ。マンドリンよりも少し大きい。楽器パートはそのほかに、もっと大きいマンドチェロ、ギター、ベースがあったように思う。なんでマンドリン部に入ったかというと、新入社員のときに勧誘を受けた先輩部員の女の子があまりにもかわいかったからだった。甘酸っぱい思い出だ。一応ギターを担当して、一度か二度は定期演奏会にも参加したと思うが、全く不真面目な部員だった。レパートリーに「マンボNO5」があってその時はボンゴを叩いて「ウッ!!」とかやったりしていた。
少し調べると、マンドリン、というのは小さなマンドーラという意味らしい。マンドーラの方が元なのだ。スケールは一般的には420mm程度、マンドリンと同じ8弦の4コースである。ヨーロッパでもアメリカでも使われていた楽器で、ヨーロッパでは「テナーマンドーラ」とも呼ばれるらしい。
ただ紛らわしいのが、通常綴りは”mandola”なのだが”mandora”と呼ばれることもあるらしい。イタリア語のアーモンド”mandorla”なので、それと混同しないため、とのことだが、アーモンドはRとLと両方入ってるからどっちにしても紛らわしいじゃないか。
ちなみにブライアン・マクドナーの担当パートには、”mandora”とRの綴りが使われている。
ちょっと脱線するが、”mandola”と呼ばれる楽器は、北欧の音楽でも使われていて、mandola(マンドーラ)、Swedish mandola(スウェディッシュマンドーラ)、Nordic mandola(北欧マンドーラ)、cittern(シターン)などと呼ばれているという。この楽器は、スウェーデンのフォークバンドFrifotのメンバー、Ale Möllerがギリシャのブズーキを参考にして開発した、複弦5コースの新しい楽器だという。もともとアイルランドで使われているブズーキ自体もプランクシィのアンディ・アーバインがギリシャから持ち帰って広めたものなので、それに似ている。
ちなみに上記ソースは、北欧音楽サイトのレソノサウンドさんのHPである。
こちらは上記”Frifot”の演奏の動画。メチャかっこいいじゃないか。
またブライアン・マクドナーは、ギブソンのHというmandoraを使っているという。検索してみたらなんと日本の楽器店でも出ていたようだ。Sold Outになっているが。こちらは1921年製だという。ギブソンでも出していた、ということはアメリカの音楽でも結構使われていたに違いない。
とにかくそのマンドーラを弾くブライアンの演奏は本当に素晴らしい。マイケル・ホルムスのブズーキとの絡み合い。強いアタック音がリズムとグルーブを作り、ベースラインとメロディラインも同時に作り出す。その二つの楽器が左右のスピーカから流れてくると、全体のアンサンブルに立体感と厚みが出てくる。
特にこの曲なんか、僕の言いたいことが伝わるのではないだろうか?
そしてバンドのフロントであるキャシー・ジョーダン、可愛らしい歌声なのに力強く、激しいバウロンの演奏と、ユーモア溢れるトークと笑顔で客を盛り上げる。彼女がいなかったらダーヴィッシュはこんなに人気が出なかっただろう。
こちら、シェイミー・オダウドがギターで参加している2010年の映像。この鋭いまなざしで中空を見つめながらバウロンを叩く彼女のカッコいいこと!
同じくシェイミー・オダウドが今度はフィドルを弾き、キャシーがギターブズーキを弾いている!
そしてこの美しい歌声!エコーもリバーブもなく、生声でこんなに美しく聞かせる歌声ってなかなか無いと思う。
ああ、とにかく来日が楽しみだ。